文化論コロキウム I班報告書
テーマ「『オタク』は犯罪予備軍か?」
発表日:2006年1月26日
発表者:木村梓紗・上野香織・小番麻美・中川明香・阿部未華・山口達哉
指導教官:池田成一
1.問題提起
1988年に起こった宮崎勤連続幼女誘拐殺人事件以来、アニメや漫画・ゲームに熱中する「オタク」を潜在的な性犯罪者とみなす風潮が広まった。近年、幼女が狙われる事件が頻発し、宮崎事件との共通性が取沙汰され、再び「オタク」=犯罪者とする声が高まっているが、はたして「オタク」は本当に犯罪予備軍なのだろうか。
2.発表内容
初めに宮崎勤事件と奈良女児誘拐殺人事件について説明し、現代の犯罪・少女に対する性犯罪についての分析を述べた。次に、性的メディアと性犯罪の結びつきについて説明した上で、“「オタク」=犯罪者”説への大塚氏と影山教授の考察を参考に、I班の仮説を述べた。
3.論点と考察
「オタク」は犯罪予備軍か?という論点に対する、I班の考察として、「オタク」の中でも性的なアニメやゲームなどに没入し、現実での対人コミュニケーション能力が欠如している一部の人々が、性犯罪に走る可能性があると言え、それはまた性情報の氾濫、性や暴力が商品化されている現代社会に原因があると述べた。
4.議論の流れ
まず、宮崎事件と小林事件に関しては、2つの事件を同列に扱うのは問題があり、そもそも宮崎勤=「オタク」と本当に言えるのか、という意見が出された。次に、児童ポルノグラフィ表現における「主体の喪失」に関しては、幼女への性的欲望の押し付けは、受動的なセクシュアリティ観の表れであると言え、「主体の喪失」と「能動性と受動性」を分けて考えるべきであるという意見や、「他者の不在」は、一方的な欲望を示しており、全てのポルノグラフィ表現に共通することであるという意見が出された。また、「オタク」に関して、男性が性的に受動的であることは、社会的に一般的に認められていないため、「オタク」は本来のアイデンティティを拒否しており、自分の望むアイデンティティを実現するため、アニメやゲームで少女と一体化することを求めているという意見があった。それが、「オタク」の自分の身体性に対する無関心に表れていると言える。
さらに「オタク」と性犯罪の結びつきに関しては、「オタク」の人々が自分の世界に没頭しすぎるため、コミュニケーションできず、犯罪に結びつくという意見があった一方で、ポルノグラフィは性犯罪を抑制しており、規制することによって、むしろ犯罪が増加する可能性があるという意見があった。また、欲望を刺激し、加速させる今日の消費社会に問題があり、欲望のブレーキが働かない人々が犯罪に走る、という意見もあった。
以上の議論を受けて、勝ち組・負け組が現代社会には存在し、負け組の人々が自己実現をするためには、弱者に対して自分の力を誇示するしかない。その対象が男性にとっては女性であり、さらにその中でも最も弱い幼女に向かうという、まとめが出された。
5.感想と反省
反省点としては、論点の設定が難しく、学生からの意見が少なかったことが挙げられる。しかし、先生方から高度な意見が様々に出され、新たに気付かされる部分が多くあった点は、良かったと言える。宮崎事件に関しても、議論を混乱させる結果になった点で、少々調査不足であったことを反省しなければならない。
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