平成13年度 前期

文化記号論 I(概要)

 

【第13回:7月27日】 

 

  ※ パース系記号論の展開(2)の続き

  • 第13回は、これまでの講義内容に関して12回目の終りに学生諸君に書いてもらった質問事項について答えるだけで時間がなくなったので、講義内容として増えた部分ははない。ただし、前回量的観点から今回に回した個所があり、以下にその部分(プリントのNo.3)をまとめておく。

 

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  チャールズ・モリス『記号と言語と行動』(1946)


 第2章 言語と社会行動

 

1 記号現象としての言語

 [...]二つ、またはそれ以上の生物がお互いに刺激を提示しあう場合、その社会行動は交互的 (reciprocal) と呼び、そうでない場合は非交互的 (non-reciprocal) と呼ぶことにする。[...]社会行動において刺激となる記号を提示する生物を供記号体 (communicator) と呼び、供記号体が提供した記号から影響を受ける生物を釈記号体 (communicatee) と呼ぼう。交互的社会行動は協働的 (cooperative)、競争的 (competitive)、また共生的 (symbiotic) の三つに分けられる。共通の目的を達するのに一つの生物が他の生物を助ける行動(ふたりの者が一本のまるたを動かす場合のような)と、共通の目的を達するのに一つの生物がじゃまする行動(一つの骨を二匹の犬が争う場合のような)と、一つの生物が他の生物から影響は受けるのであるが、協働的でもなければ、競争的でもない行動(食事中の二匹の動物が、両方の空腹を満たすにありあまるほど十分な分量の食物にお互いの注意を偶然向けさせあうような場合)とである。[...]言語と社会行動の一般的関係は記号論の直面せねばならぬ一つの問題である。[p.38-39]

2 「言語」の定義

 現在の用法では、「言語」という用語は非常にあいまいで、多義であるので、記号論で言語という語を使うのはよいかわるいか疑わしい。これに関連して指摘できるのは、[...]あるまとまった記号を一つの言語として定義し、それから言語記号とはこの一団の構成分子であると定義することである。「言語」という記号負荷体は、この分析には重要でない。だからこれを使わないようにする。ここで問題にしているような種類の記号団を言記号体系 (lansign-system) と呼び、この体系の個個の構成分子を言記号 (lansign) と呼ぶことにしてはどうであろうか。以下論ずることは言記号体系と言記号についてである。[...][p.43】

 

【第12回の講義で扱うことができたのはここまでである。残念ながら、とうていモリスの《行動主義的記号論》の全容を明らかにしたことにはならない。
 すでにおわかりのように、モリスの『記号と言語と行動』は学問体系としての記号論を構築しようとした著作であるため、専門用語の定義が延々と続くことになり、それを全て紹介するのは困難である。全8章からなる本書は、ある意味では体系的な記号論の最初の金字塔といえるので、関心をもたれた方は、ぜひとも一読されることをお勧めする。】


 


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