平成13年度 前期

文化記号論 I(概要)

 

【第11回:7月6日】 

 

  ※ パース系記号論の展開(1)

  • 2回にわたってパース系の流れを汲む記号論の系譜をさぐる。具体的にはモリスの記号学の構想を検証してゆくことになるが、今回は、記号三角形で有名なオグデン&リチャーズの『意味の意味』(1923) をまずとりあげ、それからモリスの『記号理論の基礎』(1938) を解説する。

  • オグデン&リチャーズの記号三角形は、シンボルと指示物 (referent) との関わりに直接性がないことを明示し、記号と物との関係を端的に示した点で評価されている。また、モリスの『記号理論の基礎』は、「意味論」、「語用論」、「統語論」の命名とそれらの領域を提示したことが画期的であった。

  • 資料としては、C. オグデン、I. リチャーズの『新版 意味の意味』(石橋幸太郎 訳、新泉社、2001)から、《象徴学》および《記号三角形》がまとめられている部分をA3で1枚のプリントとし、Ch. モリス『記号理論の基礎』(内田種臣&小林昭世 訳、双書プロブレーマタ、勁草書房、1988)から、記号過程と下位レベルの領域を峻別した部分をA3で1枚のプリントとし、計2枚【今回から某学生の要望を取り入れ、プリント作成時には縮小コピーの切り張りを行なわないことにした。字が小さくて睡魔に襲われるのだという... 睡魔の原因は他にあると思われるが、面倒な切り張りをしない分、こちらは楽なので、要望に従う。ただし、プリント内の情報量は減少する。】を配布した。そのプリントを参照しつつ、以下の項目について解説した。

 

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  オグデン&リチャーズ『意味の意味』(1923)


 初版の序

 

 [...]言語が思想におよぼす影響によりひき起こされる種々の困難を、直接に論議しようというのが執筆の動機である。
 今日まで、哲学者や形而上学者のひとり舞台とみなされていたところの伝統的なこの問題に近づく新しい方法が、象徴学 (Science of Symbolism)、すなわち、言語が思想におよぼす影響の研究で発見されたということ、および、さらにこれらの問題の探究は、斯学が関連しているように思われる漠然たる思弁から、この新しい学問を分化せしめるに貢献した特殊科学の方法と一致するということを、われわれは確信している。[p.19]


 第1章 思想・言葉・事物

 

 象徴学は言語およびすべての種類の象徴が、人間生活に対して持つ役割と、とくにそれが思想に及ぼす影響とを研究するものである。それは物事に省察を加える際に象徴がわれわれを助けたり、また妨害したりする様をとくに抽き出して研究題目とする。象徴 (Symbols) は指示し (direct) 組織し、記録し伝達するものを記述する場合にも、他の場合と同様に、思想 (Thoughts) と事物 (Things) とを区別しなければならない。 指示され組織されるものは思想(われわれは以下これを指示 referenceと呼ぶ)であり、記録され伝達されれるのもまた思想である。[p.54]
 [...]
 この特徴【言葉と物との関係が間接的であるということ】は図解によって簡単に説明できる。あることが陳述されたり、了解されたりする時に必ず包括される三要素は三角形の頂点に立ち、それら相互の関係は各辺によって表されている。言葉と事物との関係が間接的であるというさきの論点は、ここで三角形の底辺は構成上他の二辺のいずれとも全く異なるものであると言い換えることができる。[p.55]

 思想と象徴との間には因果関係が支配する。われわれが談話に用いる象徴体系は、一部はわれわれの行なう指示により、また一部は社会的、心理的要因──つまり指示の目的や、われわれが象徴によって他人に与えようとする効果や、われわれ自身の態度──によってひき起こされる。人の話を聞くとき、象徴はわれわれに指示活動を行なわせるとともに、事情により多少の差はあろうが、話者と類似の行動や態度をとらせる。[p.56]
 思想と指示物 (Referent) との間にもまたある関係がある。その関係は、あるいは(眼前の色彩ある表面を考えたり、注視したりする時のように)多少なり直接的であり、あるいは(ナポレオンのことを「考え」たり、「指し」たりする時のように)間接的である。後の場合には思惟行為と指示物との間に長い記号場 (sign-situations) の連鎖があるであろう。すなわち、語──歴史家──当時の記録──目撃者──指示物(ナポレオン)。
 象徴と指示物との間には間接関係以外にとりたてるべき関係はない。その関係は誰かが象徴にある指示物を表させる時に生ずる。言いかえれば、象徴と指示物とは直接に連結されているのではなく(...)、ただ三角形の二辺を廻っての間接的関係であるにすぎない。[p.56]

 [...]

 さきに例証した種々の種類の記号場を考察すれば、人々が相互伝達用として、また思想の道具として用いる記号は、特殊の位地を占めることが分かる。これらを明瞭な名称のもとに一括すれば便利である。われわれは語・語の配列・心象・身ぶり・それに絵画または物まね音声のごとき表示等の一切を象徴と呼ぼうと思う。象徴が無数の、予想もつかぬ方法で人生および思想に及ぼす影響はまだ十分に認められていない。[p.66]

 


 

Ch. W. モリス『記号理論の基礎』(1938)


 I 序論

  1 記号学と科学

 

 記号学 (Semiotic) は諸科学に対して二重の関係を持っている。つまり、それは、諸科学の中の一つの科学であり、しかも諸科学の道具である。科学としての記号学の意義は、それが科学の統一への一歩であるということにある。なぜなら、記号学は、言語学、論理学、数学、修辞学および(少なくともある程度は)美学のような、記号の特殊科学に対して基礎を与えるからである。[p.4]
 [...]
 しかしながら記号学が他の諸科学と同格な科学であって、記号として役立っているというその機能において事物や事物の性質を研究するものだとしても、それはやはりすべての科学の道具でもある。なぜなら、どの科学も記号によってその結果を利用し表現するからである。したがって、メタ科学(科学についての科学)は道具として記号学を使わなくてはならない。[p.5]


 II 記号過程と記号学

  2 記号の本性

 

 あるものが記号として機能している過程を記号過程 (semiosis) と呼んでいいだろう。古代ギリシャにまでさかのぼる伝統の中で、このような過程は次のような三個の(ないしは四個の)要素を含むものとみなされてきた。記号として作用するもの、記号が指示するもの、およびある解釈項への効果。そしてこのような効果があるから、当該のものはその解釈者にとって記号なのである。記号過程におけるこのような三個の成分はそれぞれ、記号媒体 (sign vehicle)、指示対象 (designatum)、解釈項 (interpretant) と呼んでいいだろう。[p.7]


  3 記号過程の次元とレベル

 

 記号過程という三項関係の三個の相関項(記号媒体、指示対象、解釈項)によって、多くの他の二項関係を抽出し研究できる。たとえば、記号と記号を適用できる対象との間の諸関係を研究することができる。このような関係は記号過程の意味論的次元 (semantical dimension) と呼び、‘D sem’という記号化をすることにする。そしてこの次元の研究を意味論 (semantics) と呼ぶ。あるいはまた、研究の主題を記号と解釈者との間の関係にすることもできる。このような関係は記号過程の語用論的次元 (pragmatical dimension) と呼び、‘D p’と記号化する。そしてこの次元の研究を語用論 (pragmatics) と名づける。[p.12]
 しかしまだ記号の一つの重要な関係が導入されていない。それは記号どうしの形式的な関係である。これまでの説明だと、この種の関係性は「記号」の定義の中には明示的には組み込まれていない。[p.13]
 [...]
 [...]ほとんどの記号が明らかに他の記号に関係づけられており、表面上孤立しているように見える記号の多くのものが、分析すればそうでないことが分かるし、またさらにすべての記号がたとえ現実的にはそうでなくても潜在的には他の記号に関係づけられているのであるから、記号過程の第三の次元を、すでに述べた他の二個の次元と同格においていいだろう。この第三の次元は記号過程の構文論的次元 (syntactical dimension) と呼び、‘D syn’と記号化する。この次元の研究は構文論 (syntactics) と名づけられる。[p.13]
 


 付) 美学と記号理論

  2 記号学

 

[cf. p.127]

 

 

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【参照&紹介文献】

  • C. K. Ogden & I. A. Richards, The Meaning of Meaning : A Study of The Influence of Language upon Thought and of The Science of Symbolism (1923), Routledge & Kegan Paul, 10th ed., 1949.
  • Charles W. Morris, Foundations of the Theory of Signs, coll."International Encylopedia of Unified Science", Univ. of Chicago Press, 1938.

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