平成13年度 前期

文化記号論 I(概要)

 

【第5回:5月18日】 

 

  ※ ソシュール系記号論の展開(1)

  • ソシュールの『一般言語学講義』は現代思想に決定的影響を与えたといっても過言ではない。その拡がりは、言語学 (cf. Roman Jakobson, etc.) はもとより、哲学 (cf. Maurice Merleau-Ponty)、文化人類学 (cf. Claude Lévy-Strauss)、精神分析学 (cf. Jacques Lacan)、文学 (Roland Barthes) など、枚挙に遑が無いほどで、グレマス (Algirdas Julien Greimas) を中心に《記号論パリ学派》が形成されてきたのも知られるとおりである。

  • 中でもバルトは、ソシュールが予言した「言語学がその中に含まれるところの記号学」(バルト自身は「超言語学が記号学を含む」と言うのだけれど...)を展開しようとしたパイオニアであった。

  • 今回は、バルトが Communications No4 (1964) に発表した « Éléments de sémiologie » (記号学の原理) から、言語記号以外の分野に言及された部分を中心に、記号学の応用がどのように構想されていたかを探ってみる。

  • 資料としては、「記号学の原理」、沢村昂一 訳、(in『零度のエクリチュール』、渡辺淳 訳、みすず書房、1971)から、関連部分を抜粋し、A3で2枚のプリントを配布した。そのプリントを参照しつつ、以下の項目について解説した。

 

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  バルト「記号学の原理」(1964)

 

 I:ラングとパロール

  1.2 記号学的視野から
  1.2.2 衣装の体系[p.114]

 

*書かれた衣装
 :ラング ← コードを作り上げる集団による&抽象化が書かれることにより具象化
 :パロールは不在
*写真に撮影された衣装
 :ラング≒疑似実在的衣装
 :(凝固した)パロール≒標準固体としてのモデル
*着用された衣装
 :ラング = 衣装を作っている部分や部分を相互に連合させる際の規則
 :パロール = 無秩序な製作や個人の着こなし


  1.2.3 食品の体系[p.117]

 

*ラングは以下のもので構成される
 (1):除外事項の規則(食品上のタブー)
 (2):単位間の有意的対立(甘い vs 辛い、など)
 (3):連合の規則 ← 同時的(大皿)または継起的(コースなど)
 (4):用法上の約定(食品における修辞法)
*パロールの方は非常に豊富で、調理や取り合わせのあらゆる個人的(または家族的)変化を含む


 II:シニフィエとシニフィアン

  2.1.4 記号学的記号[p.134]

 

*言語学的記号と同じように記号学的記号も Sa / Sé から成るが、実質のレベルにおいて、記号学的体系ではたいていの場合、表現面での実質の本質 (être) は意味作用のうちにはない(ex. 衣服は記号として何かを表している場合においても、なお体を保護する)
 → こうした実用的・機能的な性質の記号を「記号性機能体」(fonction-signe) と呼ぶ

  2.4 記号作用[意味作用](signification)[p.144] 

 

*記号作用 = 過程 (procès):シニフィアンとシニフィエを結びつける行為
 (1):Sa / Sé ← ソシュールの標準形
 (2):表現 (E) / 関係 (R) / 内容 (C) → 入れ子関係:E R (E R C)
   ← イェルムスレウによる関係性の明示
 (3):S / s ← ラカンによるシニフィアンの優位と両者間に横たわる検閲作用
 (4):Sa ≡ Sé ← シニフィエが他の体系を通じて有形化されている体系
   ← 合一(=)ではなく等価(≡)の関係


 III:連辞と体系[p.159]

 

*ソシュール:連辞 (syntagme) vs 連合 (association)
*イエルムスレウ:連辞 vs 範列 (paradigme)
*バルト:連辞 vs 体系 (système)


 IV:デノテーションとコノテーション[p.195]

  4.1 入れ子体系

 

*コノテーション的記号集合 (sémiotique connotative):(E R C) E R
*イエルムスレウ≒バルトによるデノテーション (dénotation) とコノテーション (connnotation) の峻別
  2   E  R  C   ← コノテーション(表現部が下位の記号からなる)
  1  E R C      ← デノテーション(記号全体が上位記号の表現部になる)
*メタランガージュ (métalangage:高次言語):E R (E R C)


 4.2 コノテーション

 

*コノテーションのシニフィアンをコノテーター (connotateur) と呼ぶ。
*コノテーションのシニフィエは「イデオロギー」の断片であり、コノテーターは「修辞」(rhétorique) といえる。


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