平成13年度 前期

文化記号論 I(概要)

 

【第8回:6月15日】 

 

  ※ 記号論の源流 II:パース(2)

  • 前回に引き続き、『パース著作集2 記号学』から、パースの記号理論のアウトラインを探る。

  • 今回は、前回配布したプリントの No.3(前回未消化)に出ている記号十個のクラスについて重点的に考える。

  • 資料として、今回も『パース著作集2 記号学』(内田種臣 編訳、勁草書房、1986)から第2章の主要部分を抜粋し、A3で2枚のプリントを配布したが、時間の関係上その内容については次回の講義時に扱う。

 

===========

 

  パース『パース著作集2 記号学』

 第1章 記号の分類

  7 記号の十個のクラス[p.17〜]

 

 [2・254](1903-2c) (1903) 記号の三種の三分法を一緒にすると、記号が十個のクラスに分割される[...]。
  (1) 性質記号 (qualisign)〔例えば、「赤い」という情態 (feeling)〕とは記号である限りでの質である。質というのはまわりの状況から絶対的に独立してそれはそれというようなものであるから、ある共通の要素によるか類似性によって対象にかかわることができるだけである。したがって、性質記号は必然的に類似記号である。
 [2・255](1903-2c) (2) 類似的単一記号 (iconic sinsign)〔例えば、固体としての図形〕とは経験の対象となっているものであり、それがある質を持っているためにある対象の観念が規定されるようになっているものである。この記号は類似記号であるから、つまりそれが何に似ているにしろ、純粋に類似性による記号であるから、本質の記号つまり名辞的記号として解釈されうるだけである。またこれは性質記号を具体化する。
 [2・256](1903-2c) (3) 名辞的指標的単一記号 (rhematic indexical sinsign)〔例えば思わず出る叫び声〕とは直接経験の対象となるもので、その出現を引き起こした対象へ注意を向けさせるようなものである。これは特殊な類似的単一記号を必然的に含んでいるがそれとはまったく別物である。というのはこれは解釈者の注意をかかわりのある対象そのものに向けるからである。
 [2・257](1903-2c) (4) 命題的単一記号 (dicent sinsign)〔例えば、風見鶏〕とは直接経験の対象であり、記号としてそれがかかわる対象に関する情報を与えてくれるようなものである。しかしこういうことはその対象によって実際に作用されることによってなしうるだけであり、したがってこの記号は必然的に指標記号である。この記号が与えることのできる唯一の情報は実動的事実 (actual fact) に関するものである。
 [2・258](1903-2c) (1903) (5) 類似的法則記号 (iconic legisign)〔例えば、事実的な個性をのぞいた図形〕とは一般法則ないしタイプであり、似たような対象の観念を心に呼びさますのに適したものにする一定の質を具現化するために、自分の実例を必要とするようなものである。これは類似記号であるから名辞的記号でなければならない。また法則記号であるから、この存在様式は一つ一つのレプリカを支配するというものであり、それぞれのレプリカは特殊な類似的単一記号である。
 [2・259](1903-2c) (1903) (6) 名辞的指標的法則記号 (rhematic indexical legisign)〔例えば、指示代名詞〕とは一般的なタイプないし法則であり、どのようにして確立されたものであっても、その実例のそれぞれは、その対象に注意を引きつけるに過ぎないような具合に、その対象から実際作用を受けている必要がある。このレプリカのそれぞれは特殊な名辞的指標的単一記号になるだろう。
 [2・260](1903-2c) (1903) (7) 命題的指標的法則記号 (dicet indexical legisign)〔例えば、町の呼び売りの声〕とは一般的なタイプないし法則であり、どのようにして確立されたものでも、その実例のそれぞれはその対象に関する一定の情報を供給するような具合に、その対象から実際作用を受けている必要がある。この記号は、情報を表すためには類似的法則記号を、そしてその情報の主体を指示するためには名辞的指標記号を含んでいなければならない。【授業中に学生の携帯電話(バイブ音)が鳴ったが、その音はパースの分類ではどの記号にあたるかをみんなで考えてみた。恐らくこの「命題的指標的法則記号」に類するのではないだろうか...】
 [2・261](1903-2c) (1903) (8) 名辞的象徴記号あるいは象徴的名辞記号 (rhematic symbol or symbolic rheme)〔例えば、普通名詞〕とは一般観念の連合によってその対象と結びつけられている記号であり、このレプリカは、心の習慣や性向によって一般概念を産出する傾向を持っているイメージを心の中に呼びさまし、その一般概念の実例である対象の記号として解釈される。こういう訳で、この名辞的象徴記号は論理学者が一般名辞と呼ぶものであるか、あるいはそれと非常に似たものである。名辞的象徴記号はどんな象徴記号とも同じように、必然的に一般的タイプという本性を持つものであり、そういう訳で法則記号である。しかしこのレプリカは、心に示唆するイメージが、一般概念を産出するため、その心の中にすでに存在する象徴記号に作用するという点で、特殊な名辞的指標単一記号である。[...] 指示代名詞『あれ』は法則記号つまり一般的タイプであるが、象徴記号ではない。というのは一般概念を表さないからである。指示代名詞のレプリカは単一の対象に注意を引きつけるから、名辞的指標的単一記号である。
 [2・262](1903-2c) (1903) (9) 命題的象徴記号あるいは通常の命題 (dicent symbol or ordinary proposition)とは、一般観念の連合によってその対象と結びつけられている記号であり、名辞的象徴記号と似たようにふるまうが、ただ違っている点は、命題的象徴記号の方はそれによって意図されている解釈項が、それの意味するものの故に、その対象によって実際に影響されているものとして、それを表意し、したがって、それが心に呼び起こす現象ないし法則は指示されている対象に実動的に結びつけられていなければならない、という点である。こういう訳で、意図されている解釈項は命題的象徴記号を命題的指標的法則記号と見なす。命題的象徴記号がもし真であれば、これがその全体性という訳ではないが、事実こういう本性をともに持っている。この記号は名辞的象徴記号と同じように必然的に法則記号である。
 [2・263](1903-2c) (1903) (10) 論証 (argument)とうのは解釈項がその対象を、法則、つまりかくかくの前提のすべてからのかくかくの結論への移行は真理に向かう傾向があるという法則を通って後続してくる記号として表意するような記号である。だからその対象は明らかに一般的でなければならない。つまり、論証は象徴記号でなければならない。さらに象徴記号であるから法則記号でなければならない。このレプリカは命題的単一記号である。
 [2・264](1903-2c) (1903) 十個のクラスの類縁性はそれぞれの名称を図のような三角形の表に整理することによって示すことができる。一つの観点だけで似ているクラスは互いに隣接する四辺形の間に濃い境界線が引かれている。それ以外の隣接する四辺形は二つの観点が似ているクラスに充てられている。隣接していない四辺形は三角形の頂点にある三つの四辺形を除いて一つの観点だけ似ているクラスに充てられている。三角形の頂点にある三つの四辺形について言うと、それぞれの対辺にある四辺形が充てられているクラスと三つすべての観点で違っているクラスに充てられている。薄く印刷されている名称は余分なものである。


前へ / 次へ